と、いよいよ妙だが、いかがです若旦那、田崎君の名義でもよろしいから、二三万御奮発なすっちゃ。きっともうけさして上げますぜ」
 と本性《ほんしょう》違《たが》わぬ生酔《なまえ》いの口は、酒よりもなめらかなり。千々岩は黙然と坐《ざ》しいる武男を流眸《ながしめ》に見て、「○○○○、確か青物町《あおものちょう》の。あれは一時もうかったそうじゃないか」
 「さあ、もうかるのを下手《へた》にやり崩《くず》したんだが、うまく行ったらすばらしい金鉱ですぜ」
 「それは惜しいもんだね。素寒貧《すかんぴん》の僕じゃ仕方ないが、武男君、どうだ、一肩ぬいで見ちゃア」
 座に着きし初めより始終|黙然《もくねん》として不快の色はおおう所なきまで眉宇《びう》にあらわれし武男、いよいよ懌《よろこ》ばざる色を動かして、千々岩と山木を等分に憤りを含みたる目じりにかけつつ
 「御厚意かたじけないが、わが輩のように、いつ魚の餌食《えじき》になるか、裂弾、榴弾《りゅうだん》の的になるかわからない者は、別に金もうけの必要もない。失敬だがその某会社とかに三万円を投ずるよりも、わが輩はむしろ海員養成費に献納する」
 にべなく言い放つ
前へ 次へ
全313ページ中101ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング