魚《さかな》だな、鮎《あゆ》でもなしと……」
「山女《やまめ》とか申しましたっけ――ねエばあや」
「そう? うまい、なかなかうまい、それお代わりだ」
「ほほほ、旦那様のお早うございますこと」
「そのはずさ。今日は榛名《はるな》から相馬《そうま》が嶽《たけ》に上って、それから二《ふた》ツ嶽《だけ》に上って、屏風岩《びょうぶいわ》の下まで来ると迎えの者に会ったんだ」
「そんなにお歩き遊ばしたの?」
「しかし相馬が嶽のながめはよかったよ。浪さんに見せたいくらいだ。一方は茫々《ぼうぼう》たる平原さ、利根《とね》がはるかに流れてね。一方はいわゆる山また山さ、その上から富士がちょっぽりのぞいてるなんぞはすこぶる妙だ。歌でも詠《よ》めたら、ひとつ人麿《ひとまろ》と腕っ比べをしてやるところだった。あはははは。そらもひとつお代わりだ」
「そんなに景色《けしき》がようございますの。行って見とうございましたこと!」
「ふふふふ。浪さんが上れたら、金鵄《きんし》勲章をあげるよ。そらあ急嶮《ひど》い山だ、鉄鎖《かなぐさり》が十本もさがってるのを、つたって上るのだからね。僕なんざ江田島《えたじま》
前へ
次へ
全313ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング