活動著しく、到る処のホテルの如きも独逸人の経営に係《かゝ》るもの多し。
 アブラハムが天幕を張りしベテルの跡なるべしと云ふ所をはじめとして、道の左右は遠き山の側《きは》、近き谷の隈《くま》、到る処に旧約の古蹟と十字軍時代の建物の名残あり。岩の山、畑なくして唯処々《しよ/\》に橄欖林《かんらんりん》或は稀に葡萄畑を見る。馬車とまりし或小屋にては、白き桑実《くはのみ》を売れり。白、紫両種あり、皆果実の為に植うるなり。ダマスコ附近には養蚕用の桑畑ありと云ふ。やがて強盗谷、強盗泉あり。岩壁の下、草地《くさぢ》数弓《すきう》、荷を卸して駱駝臥し、人憩ふ。我儕《われら》の馬も水のみて行く。やがてまた十数頭の駱駝|鈴《りん》を鳴らし驢馬の人これを駆り来るを見る。荷は皆|杏《あんず》。
 昔のサマリヤ境に近きシンジルの村はづれにて、路傍橄欖樹下に三頭の馬を繋いで昼寝する男あり。ジヤルルック君車上より声かけしが、寤《さ》めず。車を下りて呼びさまし来る。此は夜をこめてエルサレムより余等の乗る可き馬を牽《ひ》き来り此処《こゝ》に待てる馬士《まご》イブラヒム君とて矢張シリヤ人なり。やがて道は急坂《きふはん》の
前へ 次へ
全17ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング