の肥料《こやし》にしてしまふ。馴付《なつ》けた敵は、味方である。「年々や桜を肥《こや》す花の塵」美しい花が落ちて親木《おやき》の肥料になるのみならず、邪魔の醜草《しこぐさ》がまた死んで土の肥料になる。清水却て魚棲まず、草一本もない土は見るに気もちがよくとも、或は生命なき瘠土《せきど》になるかも知れぬ。本能は滅す可からず、不良青年は殺さずして導く可きであることを忘れてはならぬ。誰か其|懐《ふところ》に多少の草の種を有つて居らぬ者があらうぞ?
畑の草にも色々ある。つまんでぬけばすぽっとぬけて、しかも一種の芳《かんば》しい香《か》を放つ草もある。此辺で鹹草《しょつぱぐさ》と云ふ。丈矮《たけひく》く茎|紅《あか》ぶとりして、頑固らしく※[#「※」は「あしへん+番」、第4水準2−89−49、68−11]《わだかま》つて居ても、根は案外浅くして、一挙手に亡ぼさるゝ草もある。葉も無く花も無く、地下一尺の闇を一丈も二丈も這ひまはり、人知れず穀菜に仇なす無名草《ななしぐさ》もある。厄介なのは、地縛《ぢしば》り。単弁の黄なる小菊の様に可憐な花をしながら、蔓延又蔓延、糸の様な蔓は引けば直ぐ切れて根を残し、
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