「エ、かみさんも一緒に居ます。子供ですか、子供は居ません。たしか大きいのが滿洲に居るとか云ふことでしたつけ」
 案外早く埓が明いたので、余は禮を云つて、直ぐ白糠《しらぬか》へ引かへした。
「分かつてようございました。エ、彼人《あのひと》ですか、たしか淡路《あはぢ》の人だと云ひます。飯屋をして、大分儲けると云ふことです」と案内者は云うた。
 白糠《しらぬか》の宿に歸ると、秋の日が暮れて、ランプの蔭に妻兒が淋しく待つて居た。夕飯を食つて、八時過ぎの終列車で釧路に引返へす。

    北海道の京都

 釧路で尋ぬるM氏に會つて所要を果し、翌日池田を經て※[#「冫+陸のつくり」、15−上−13]別《りくんべつ》に往つて此行第一の目的なる關寛翁訪問を果し、滯留六日、旭川一泊、小樽一泊して、十月二日|二《ふた》たび札幌に入つた。
 往きに一晝二夜、復へりに一晝夜、皮相を瞥見した札幌は、七年前に見た札幌とさして相違を見出す事が出來なかつた。耶蘇教信者が八萬の都府《とふ》に八百からあると云ふ。唯一臺來た自動車を市の共議で排斥したと云ふ。二日の夜は獨立教會でT牧師の説教を聞いて山形屋に眠り、翌日はT
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