るひは白く立枯るゝ峯を過ぎて、障るものなき邊《あたり》へ來ると、軸物の大俯瞰圖のする/\と解けて落ちる樣に、眼は今汽車の下りつゝある霜枯の萱山《かややま》から、青々とした裾野につゞく十勝の大平野を何處までもずうと走つて、地と空と融け合ふ邊《あたり》にとまつた。其處に北太平洋が潛むで居るのである。多くの頭が窓から出て眺める。汽車は尾花の白く光る山腹を、波状を描いて蛇の樣にのたくる。北東の方には、石狩、十勝、釧路、北見の境上に蟠《わだかま》る連嶺が青く見えて來た。南の方には、日高境の青い高山が見える。汽車は此等の山を右の窓から左の窓へと幾囘か轉換して、到頭平野に下りて了うた。
 當分は※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《かしは》の林が迎へて送る。追々大豆畑が現はれる。十勝は豆の國である。旭川平原や札幌深川間の汽車の窓から見る樣な水田は、まだ十勝に少ない。帶廣《おびひろ》は十勝の頭腦、河西《かさい》支廳の處在地、大きな野の中の町である。利別《としべつ》から藝者|雛妓《おしやく》が八人乘つた。今日|網走《あばしり》線の鐵道が※[#「冫+陸のつくり」、10−下−20]別《りくんべつ》まで
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