だ》しカラアと咽の合戦の結果)一きは目だち、咽をカラアにしめられてしきりに堅睡《かたづ》をのむ猪首《ゐくび》のすわり可笑しく、胸をシヤツ胴衣《チヨツキ》に窄《せば》められてコルセツトを着けたるやうに呼吸苦しく、全体|宛《さなが》ら糊されし様に鯱張《しやちば》りかへつて、唯真すぐに向を見るのみ、起居《たちゐ》振舞《ふるまひ》自由ならざる、如何《どう》しても明治の木曾殿と云ふ容子《ありさま》。あゝ如何しても「かりぎ」はまづい、窮屈な燕尾服でつまらぬ夜会とかを覗《のぞ》かうより、木綿縞《もめんじま》に兵児帯《へこおび》、犬殺《いぬころし》のステツキをもつて逗子の浜でも散歩した方が似合つて居た、と思うて最早斯うなつてはあとの祭、阿姪《あてつ》阿甥《あせい》書生|等《とう》の眼を避けて、鏡に背《そむ》いて澄《すま》し居たり。
暫くすると、最早時刻だ、出かけようとシルクハツトを持つて、兄が出て来たので、吾も煙突を筒切《つゝぎ》りしたやうにごわ/\したるシルクハツトをのせて、ズボンのちぎれを気にしてやう/\靴をはき終わり、二輌の車はから/\と玄関さきを出でたり。
(三)
二輌の車は勢
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