毛の束髪の顔は醜くたけ矮《ひく》き夫人の六尺近き燕尾服の良人の面仰ぎつゝ何やらん甘へたる調子にて物尋ねらるゝ、曙染《あけぼのそめ》の振袖《ふりそで》に丈長《たけなが》のいと白《しろ》う緑鬢《りよくびん》にうつりたる二八ばかりの令嬢の姉なる人の袖に隠れて物馴れたる男の言《ものい》ふに言葉はなくて辞儀ばかりせられたる、蓄音機と速撮《はやどり》写真と欲《ほ》しき事のみ多し。斯る間を主人の外相の足にまつはる剣をうるさげに左手《ゆんで》に握りて、眼鏡の顔を少し仰むけ、あちこち行きかへりして心つけらるゝ御苦労千万――思へば外務大臣にも減多になれぬものなり。
 室内の温気《うんき》の耐へ難きに、吾はそつと此処を滑り出でゝ喫煙室の方に行きぬ。婦人室の前を過ぐる時、不図《ふと》室内を見入れたれば、寂々《せき/\》たる室の一隅の暖炉を擁《よう》し首を鳩《あつ》めて物語る二人の美人。よくよく見れば、伊東|巳代治《みよぢ》の君と岡崎邦輔の君となり。何れ劣らぬ梅桜、世にもしほらしき人達にて在《おは》せば、婦人室は尤も似つかはしく、何事をか語らひて居たまひけん。其は知らねど、政治小説でも書く人ならば、見|※[#「
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