は兄が唖で弟が盲であった。罪の結果は恐ろしいものです、と久さんの義兄はある人に語った。其内、稲次郎は此辺で所謂|即座師《そくざし》、繭買《まゆかい》をして失敗し、田舎の失敗者が皆する様に東京に流れて往って、王子《おうじ》で首を縊《くく》って死んだ。其妻は子供を連れて再縁し、其住んだ家は隣字《となりあざ》の大工が妾の住家となった。私も棺桶をかつぎに往きましたでサ、王子まで、と久さん自身稲次郎の事を問うたある人に語った。

       三

 背後は雑木林、前は田圃《たんぼ》、西隣は墓地、東隣は若い頃彼自身遊んだ好人の辰《たつ》爺《じい》さんの家、それから少し離れて居るので、云わば一つ家の石山の新家は内証事《ないしょうごと》には誂向《あつらえむ》きの場所だった。石山の爺さんが死に、稲次郎も死んだあと、久さんのおかみは更に女一人子一人生んだ。唖と盲は稲次郎の胤《たね》と分ったが、彼《あの》二人《ふたり》は久さんのであろ、とある人が云うたら、否、否、あれは何某《なにがし》の子でさ、とある村人は久さんで無い外の男の名を云って苦笑《にがわらい》した。Husband−in−Law の子で無い子は、
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