十四日、然し沼のあたりのイタヤ楓《かえで》はそろ/\染《そ》めかけて居る。処々|楢《なら》や白樺《しらかば》にからんだ山葡萄《やまぶどう》の葉が、火の様に燃えて居る。空気は澄み切って、水は鏡の様だ。夫婦島《めおとじま》の方に帆舟が一つ駛《はし》って居る。櫓声静に我舟の行くまゝに、鴨《かも》が飛び、千鳥《ちどり》が飛ぶ。やがて舟は一の入江に入って、紅葉館の下に着いた。女中が出迎える。夥《おびただ》しくイタヤ楓の若木を植えた傾斜を上って、水に向う奥の一間《ひとま》に案内された。
都の紅葉館は知らぬが、此紅葉館は大沼に臨《のぞ》み、駒が岳に面し、名の如く無数の紅葉樹に囲まれて、瀟洒《さっぱり》とした紅葉館である。殊に夏の季節も過ぎて、今は宿もひっそりして居る。薪《まき》を使った鉱泉に入って、古めかしいランプの下、物静かな女中の給仕で沼の鯉《こい》、鮒《ふな》の料理を食べて、物音一つせぬ山の上、水の際《きわ》の静かな夜の眠《ねむり》に入った。
真夜中《まよなか》にごろ/\と雷が鳴った。雨戸の隙《すき》から雷が光った。而して颯《ざあ》と雨の音がした。起きて雨戸を一枚|繰《く》って見たら、最早
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