が》むように頼んだものです。ある避難の家族は、麦《むぎ》がまずいと云うて、「贅沢な」と百姓から、頭ごなしに叱りつけられました。去五月の末まで私共の家に働いて居た隣字のS女の家の傭女《やといめ》が水瓜畑に働いて居ると、裏街道を都落ちの人と見えて母子づれが通りかゝり、水瓜を一つ無心しました。傭人の遠慮して小さなのを一つもいでやると、悦んでそれを持って木蔭に去りました。やがてS女が来たので、傭女は其話をして、あの水瓜は未熟だったかも知れぬと言います。S女は直ぐ大きなよく出来たのをもいで、後追いかけました。都落ちの母子は木蔭で未熟の水瓜を白い皮まで喰い尽して居た所でした。「斯様《こんな》にうまい水瓜をはじめて食べました」とS女に悦びをのべたのでした。こんな時にこそ都会住者も自然の懐《ふところ》のうれし味をしみ/″\思い知ります。田舎の懐を都に開かせ、都の頭《ず》を自然に下げさせる――震災の働きの一つはこれでした。
 それは東京に住む東京人に限りません。十七年来村住居の私共だって、米麦つくらぬ美的百姓は同様です。「或る百姓の家」を出した江渡幸三郎君のような徹底した百姓と、私共のように米麦を買うて
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