世は一色《ひといろ》の雪の夕暮
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ](大正元年 十二月二十九日)
[#改丁]
読者に
(一)
読者諸君。
「みみずのたはこと」の出版は、大正二年の三月でした。それから今大正十二年十二月まで何時しか十年余の月日が立ちました。此十年余の限りない波瀾にも、最近の大震災にも幸に恙《つつが》なく、ここに「みみずのたはこと」の巻末に於て、粕谷の書斎から遙に諸君と相見るを得るは、感謝の至です。
まことに大正の御代になっての斯十余年は、私共に、諸君に、日本に、はた世界にとって、極めて多事多難な十余年でありました。
大正元年暮の二十九日、雪の黄昏を眺めた私の心のやるせない淋しさ――それは世界を掩うて近寄り来る死の蔭の冷《ひい》やりとした歩《あゆ》みをわれ知らず感じたのでした。大正二年「みみずのたはこと」の出版をさながらのきっかけに、日一日、歩一歩、私は死に近づいて来ました。死にたくない。※[#「しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《のが》れたい、私は随分もがきました。一家を挙げて秋の三月《みつき》を九州から南満洲、朝
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