大渦《おおうず》が巻いて居るので、村を出ると直ぐ東京に吸われてしもうて、移住出稼などに向く者は先ず無いと云うてよい。世良田《せらだ》君なんどは稀有《けう》の例である。
 東京に出て相応《そうおう》に暮らして行く者もあるが、春秋の彼岸や盆《ぼん》に墓参に来る人の数は少なく、余の直ぐ隣の墓地でも最早《もう》無縁《むえん》になった墓が少からずあるのを見ると、故郷はなれた彼等の運命が思いやられぬでもない。「家鴨馴知灘勢急、相喚相呼不離湾」何処《どこ》ぞへ往ってしまいたいと口癖《くちぐせ》の様に云う二番目息子の稲公《いねこう》を、阿母《おふくろ》が懸念《けねん》するのも無理は無い。
[#地から3字上げ](明治四十四年 十二月五日)
[#改ページ]

     透視

 非常の霜、地皮《ちひ》が全く霜《しも》やけして了うた。
 午《ご》の前後はまた無闇《むやみ》と暖《あたたか》だ。凩《こがらし》も黙《だま》り、時雨《しぐれ》も眠《ねむ》り、乾《かわ》いて反《そ》りかえった落葉《おちば》は、木の下に夢《ゆめ》みて居る。烏《からす》が啼《な》いたあとに、隣の鶏《にわとり》が鳴《な》き、雀《すずめ》が去
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