て、広くもあらぬ家には人影《ひとかげ》と人声《ひとごえ》が一ぱいに溢れて居る。土間の入口で、阿爺《ちゃん》の辰さんがせっせと饂飩粉《うどんこ》を捏《こ》ねて居る。是非《ぜひ》上《あが》れと云うのを、後刻とふりきって、大根を土間に置いて帰る。
 午後万歳の声を聞いて、遽《あわ》てゝ八幡《はちまん》に往って見る。最早《もう》楽隊《がくたい》を先頭に行列が出かける処だ。岩公は黒紋付の羽織、袴、靴、茶《ちゃ》の中折帽《なかおれぼう》と云う装《なり》で、神酒《みき》の所為《せい》もあろう桜色になって居る。岩公の阿爺《ちゃん》は体格《なり》は小さい人の好い爺《じい》さんだが、昔は可なり遊んだ男で、小供まで何処かイナセなところがある。
 余も行列に加わって、高井戸まで送る。真先《まっさ》きに、紫地に白く「千歳村粕谷少年音楽隊」とぬいた横旗を立てゝ、村の少年が銀笛《ぎんてき》、太鼓《たいこ》、手風琴《てふうきん》なぞピー/\ドン/\賑《にぎ》やかに囃《はや》し立てゝ行く。入営者の弟の沢ちゃんも、銀笛を吹く仲間《なかま》である。次ぎに送入営の幟《のぼり》が五本行く。入営者の附添人としては、岩公の兄貴の村
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