《ひきゅう》。
 都も鄙《ひな》も押並《おしな》べて黒きを被《き》る斯大なる哀《かなしみ》の夜に、余等は茫然《ぼうぜん》と東の方を眺めて立った。生温《なまあたた》かい夜風がそよぐ。稲の香《か》がする。
「行《い》きなさるかね」半丁ばかり北の方で突然|人声《ひとごえ》がした。
「エ、些《ちっと》ンべ行って見べいと思《も》って」
 田圃道《たんぼみち》を東の方へ人の足音がした。やがてパチ/\と拍手《かしわで》の音が闇《やみ》に響く。
 轜車《じゅしゃ》は今|何《ど》の辺を過ぎさせられるのであろう?
[#地から3字上げ](大正元年 九月十三日)
[#改ページ]

     東の京西の京
       (明治天皇の御始終)

 西なる京《きやう》に君は生《あ》れましき。
 西なる京に生れ玉へる君はしも、東に覇府《はふ》ありてより幾百年、唯東へ東へと代々《よよ》の帝《みかど》父祖《ふそ》の帝の念じ玉ひし東征の矢竹心《やたけごころ》を心として、白羽二重に緋《ひ》の袴《はかま》、五歳《いつつ》六歳《むつつ》の御遊《ぎよいう》にも、侍女《つかへをみな》を馬にして、東下《あづまくだ》りと宣《の》らしつゝ
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