あった。
大詰《おおづめ》の幕がひかれたのが、九時過ぎ。新宿から車で帰る。提灯《ちょうちん》の火が映《うつ》る程、街道《かいどう》は水が溜《たま》って居る。
「降ったね」
「えゝ/\。ひどい降りでした。上《かみ》では雹《ひょう》が降ったてます」
余等が帝劇のハムレットに喜憂《きゆう》を注《そそ》いで居る間に、北多摩《きたたま》では地が真白になる程雹が降った。余が畑の小麦《こむぎ》も大分こぼれた。隣字《となりあざ》では、麦は種《たね》がなくなり、桑《くわ》も蔬菜《そさい》も青い物|全滅《ぜんめつ》の惨状《さんじょう》に会《あ》うた。
[#地から3字上げ](明治四十四年 五月二十四日)
[#改ページ]
春の暮
庭石菖《にわせきしょう》、またの名は草あやめの真盛りである。茜《あかね》がかった紫と白と、一本二本はさしてめでたい花でもないが、午《ご》の日を受けて何万となく庭一面に咲く時は、緑の地《じ》に紫と白の浮き模様《もよう》、花毛氈《はなもうせん》を敷いた様に美しい。見てくれる人がないから、日傭《ひよう》のおかみを引張って来て見せる。
草あやめの外には、芍薬《しゃくやく
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