どい》君が残って居る。
 土肥君は余の同郷、小学校の同窓《どうそう》である。色の浅黒い、顋《あご》の四角な、鼠《ねずみ》の様な可愛いゝ黒い眼をした温厚《おんこう》な子供であった。阿父《おとっさん》が書家《しょか》樵石《しょうせき》先生だけに、土肥君も子供の時から手跡《しゅせき》見事に、よく学校の先生に褒《ほ》められるのと、阿父が使いふるしの払子《ほっす》の毛先を剪《はさ》み切った様な大文字筆を持って居たのを、余は内々ひどく羨《うらや》んだものだ。其れは西郷戦争前であった。余等の仲間《なかま》では、仲の好い同志遊びに往ったり来たり泊《とま》ったりしたものだ。ある時余は学校の帰りに土肥君と他の二三人を「遊びに来《こ》らし」と引張って、学校から小一里もある余の家に伴《とも》のうた。遊んで居る内日が暮れたので、皆泊ることにした。土肥君は彼《あの》鼠《ねずみ》の様な眼を見据《みす》えて、やゝ不安な寂《さび》しそうな面地をして居たが、皆に説破されて到頭泊った。枕を並べて一寝入《ひとねい》りしたと思うと、余等は起された。土肥君の宅から迎えの使者が来たと云うのである。土肥君はいそ/\起きて一人帰って往
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