と運転手が云う。
余は痛快であった。自動車の意志は、さながら余に乗り移《うつ》って、臆病者《おくびょうもの》も一種の恍惚《エクスタシー》に入った。余は次第に大胆《だいたん》になった。自動車が余を載せて駈けるではなく、余自身が自動車を駆って斯《か》く駛《は》せて居るのだ。余は興《きょう》に乗《じょう》じた。運転手台に前途を睥睨《へいげい》して傲然《ごうぜん》として腰かけた。道があろうと、無かろうと、斯速力で世界の果まで驀地《まっしぐら》に駈けて見たくなった。山となく、野となく、人でも獣《けもの》でもあらゆるものを乗り越え踏みつけ、唯真直に一文字に存分に駈けて駈けて駈けぬいて見たくなった。硝子戸《がらすど》の内を見かえれば、母は眼を閉じ、父は口を開き、姉と妻児《さいじ》は愉快そうに笑って話して居る。
「何《ど》の位でとめられるですかね」またそろ/\臆病風《おくびょうかぜ》が吹いて来た余は、右手にかけて居る運転手に問うた。
「三|間前《げんまえ》ならトメます。運転手は中々頭がなければ出来ません」
「随分神経を使うですね」
「エ、然し愉快です――力《ちから》ですから」
忽《たちまち》世田ヶ
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