かんばん》を出した慾張り屋の与右衛門さんは、詐を云わぬ、いかさまをせぬ。それから彼は作代《さくだい》に妻をもたせて一家を立てゝやったり、義弟が脚部に負傷《ふしょう》したりすると、荷車にのせて自身|挽《ひ》いて一里余の道を何十度も医者へ通ったり、よく縁者の面倒《めんどう》を見る。与右衛門さんに自慢話《じまんばなし》がある。東京者が杉山か何か買って木を伐《き》らした時、其木が倒れて誤《あやま》って隣合《となりあ》って居る彼与右衛門が所有林《しょゆうりん》の雑木《ぞうき》の一本を折った。最初|無断《むだん》で杉を伐りはじめたのであった。与右衛門さんは例《れい》の毛虫眉《けむしまゆ》をぴりりとさせて苦情《くじょう》を持込んだ。御自分に御買いになった木を御伐《おき》りになるに申分は無いが、何故《なぜ》此方の山の木まで御折りになったか、金が欲しくて苦情を申すでは無い、金は入りません、折れた木を元《もと》の様にして戴《いただ》きたい。思いがけない剛敵《ごうてき》に出会《でっくわ》して、東京者も弱った。与右衛門さんは散々並べて先方《せんぽう》を困《こま》らせぬいた揚句《あげく》、多分の賠償金《ばいしょ
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