》で、急に梅が咲き、雪柳《ゆきやなぎ》が青く芽をふいた。山茱萸《さんしい》は黄色の花ざかり。赤い蕾《つぼみ》の沈丁花《ちんちょうげ》も一つ白い口を切《き》った。春蘭《しゅんらん》、水仙《すいせん》の蕾が出て来た。
雲雀《ひばり》が頻《しきり》に鳴く。麦畑《むぎばた》に陽炎《かげろう》が立つ。
唖の巳代吉が裸馬《はだかうま》に乗って来た。女子供がキャッ/\騒《さわ》ぎながら麦畑の向うを通る。若い者が大勢《おおぜい》大師様の参詣《さんけい》に出かける。
春だ。
恋猫《こいねこ》、恋犬《こいいぬ》、鶏《にわとり》は出しても/\巣《す》につき、雀《すずめ》は夫婦で無暗《むやみ》に人の家《うち》の家根《やね》に穴をつくり、木々は芽を吐き、花をさかす。犬のピンの腹《はら》ははりきれそうである。
夜は松の心芽《しんめ》程《ほど》の小さな蝋燭《ろうそく》をともして、雛壇が美《うつく》しかった。
(二)春雨
三月六日。
尽日《じんじつ》雨、山陽《さんよう》の所謂《いわゆる》「春雨《はるさめ》さびしく候」と云う日。
書窓《しょそう》から眺めると、灰色《はいいろ》をした小雨
前へ
次へ
全684ページ中459ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング