》で、急に梅が咲き、雪柳《ゆきやなぎ》が青く芽をふいた。山茱萸《さんしい》は黄色の花ざかり。赤い蕾《つぼみ》の沈丁花《ちんちょうげ》も一つ白い口を切《き》った。春蘭《しゅんらん》、水仙《すいせん》の蕾が出て来た。
 雲雀《ひばり》が頻《しきり》に鳴く。麦畑《むぎばた》に陽炎《かげろう》が立つ。
 唖の巳代吉が裸馬《はだかうま》に乗って来た。女子供がキャッ/\騒《さわ》ぎながら麦畑の向うを通る。若い者が大勢《おおぜい》大師様の参詣《さんけい》に出かける。
 春だ。
 恋猫《こいねこ》、恋犬《こいいぬ》、鶏《にわとり》は出しても/\巣《す》につき、雀《すずめ》は夫婦で無暗《むやみ》に人の家《うち》の家根《やね》に穴をつくり、木々は芽を吐き、花をさかす。犬のピンの腹《はら》ははりきれそうである。
 夜は松の心芽《しんめ》程《ほど》の小さな蝋燭《ろうそく》をともして、雛壇が美《うつく》しかった。

       (二)春雨

 三月六日。
 尽日《じんじつ》雨、山陽《さんよう》の所謂《いわゆる》「春雨《はるさめ》さびしく候」と云う日。
 書窓《しょそう》から眺めると、灰色《はいいろ》をした小雨
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