んかたいへい》、国土安穏《こくどあんのん》、五穀成就《ごこくじょうじゅ》、息災延命《そくさいえんめい》を朝々祈るのである。彼女は村の生れでなく、噂《うわさ》によればさる士《さむらい》の芸妓《げいしゃ》に生ませた女らしい。其信心は何時から始まったか知らぬが、其夫が激烈《げきれつ》な脚気《かっけ》にかゝって已に衝心《しょうしん》した時、彼女は身命《しんめい》を擲《なげう》って祈ったれば、神のお告に九年|余命《よめい》を授《さず》くるとあった。果然《はたして》夫の病気は畳《たたみ》の目一つずつ漸々快方に向って、九年の後死んだ。顔の蒼白い、頬骨《ほおぼね》の高い、眼の凄《すご》い、義太夫語りの様な錆声《さびごえ》をした婆さんである。「折目高《おりめだか》なる武家《ぶけ》挨拶《あいさつ》」と云う様な切口上で挨拶をするのが癖である。今日も朝方《あさがた》蓄音器招待の礼《れい》に、季節には珍らしい筍《たけのこ》二本持て来てくれた。
 琴婆さんは蓄音器の返礼《へんれい》にと云って、文句《もんく》は自作の寿《ことぶき》を唄うて居る。
「福富サンが、皆を集めて遊ばせて下さるゥ……(如何《どう》も声が出ない
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