十一時|雑煮《ぞうに》。東京仕入の種物《たねもの》沢山で、頗《すこぶる》うまい。長者気《ちょうじゃき》どりで三碗|代《か》える。尤も餅《もち》は唯三個。
*
朝は晴、やがて薄曇《うすぐも》って寒かったが、正午頃《しょうごころ》からまた日が出て暖《あたたか》になった。
自家《うち》は正月元日でも、四囲《あたり》が十二月一日なので、一向正月らしい気もちがせぬ。年賀に往く所もなく、来る者も無い。
デデンがぶらりと遊びに来た。デデンは唖の巳代吉《みよきち》が事である。唖で口が利けぬが、挨拶《あいさつ》をする場合には、デデンと云う声を出す。彼は姦淫《かんいん》の子である。戸籍面《こせきめん》の父は痴《おろか》で、母は莫連者《ばくれんもの》、実父は父の義弟《ぎてい》で実は此村の櫟林《くぬぎばやし》で拾《ひろ》われた捨子《すてご》である。捨てた父母は何者か知らぬが、巳代吉が唖ながら心霊《しんれい》手巧《しゅこう》職人風のイナセな容子を見れば、祖父母の何者かが想像されぬでもない。巳代吉は三歳《みっつ》までは口をきいた。ある日「おっかあ、お湯が呑みてえ」と呼んだきり唖と
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