頂《さんちょう》から画はがきをよこしたりした。
 来たら留めて置いてくれとのはがきに接した時、いさゝか不審に思いは思いながら、まさか彼が生《せい》を見捨《みす》てようとは思わなかった。
 角谷は十二日から三日間、例によって夏休をもろうた。十一日に貯金の全部百二十円を銀行から引出し、同店員で従兄《いとこ》に当る若者|宛《あて》の遺書《いしょ》を認《したた》め、己がデスクの抽斗《ひきだし》に入れた。其の遺書には、自分は十九歳を一期《いちご》として父の許《もと》へ行く――父は前年郷里で死んだ――主人には申訳《もうしわけ》が無いから君から宜しく云うてくれ、荷物は北海道に居る母の許に送ってくれ、運賃として金五円|封入《ふうにゅう》して置く、不足したら店員某に七十二銭の貸しがあるから、其れで払ってくれ、と書いてあった。
 十二日には、主人の出社を待って、暇乞《いとまごい》して店を出で、麻布の伯父の家を訪《と》うて二階に上り、一時間半程|眠《ねむ》った。それから日比谷《ひびや》で写真を撮《と》って、主人、伯父、郷里の兄、北海道の母に届《とど》く可く郵税《ゆうぜい》一切《いっさい》払《はら》って置いた
前へ 次へ
全684ページ中439ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング