てお休み」と妻が云うた。気分が悪くて裁縫《さいほう》の稽古から帰って来たのであった。彼女は其れっきり元気には復さなかった。彼女の家では牛乳をとってのませた。彼女の兄は東京に下肥引きに往った帰りに肴《さかな》を買って来ては食わした。然し彼女は日々衰えた。遠慮勝の彼女は親兄弟にも遠慮した。死ぬる二三日前、彼女はぶらりと起きて来て、産後の弱った体で赤ん坊を見て居る母の背《うしろ》に立ち、わたしが赤ん坊を見て居るから阿母《おっかさん》は少しお休みと云うた。死ぬる前日は、父に負われて屋敷内を廻ってもらって喜んだ。其翌日も父は負って出た。父が唯一房咲いた藤の花を折ってやったら、彼女は枕頭《まくらもと》の土瓶に插して眺めて喜んだ。其夜彼女は父を揺《ゆ》り起し、「わたしが快《よ》くなったら如何でもして恩報じをするから、今夜は苦艱《くげん》だから、済まないが阿爺さん起きて居てお呉れ、阿母《おっかさん》は赤ん坊や何かでくたびれきって居るから」と云うた。而して翌朝到頭息を引取った。彼女は十六であった。彼女の家は、神道《しんどう》禊教《みそぎきょう》の信徒で、葬式も神道であった。兄の二人、弟の一人と、姉婿が棺
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