り兄が尚|恐《こわ》かったので、恐《お》ず/\五六歩先に立った。出るわ/\、二足行ってはかさ/\/\、五歩往ってはくゎさ/\/\、烏蛇、山かゞし、地もぐり、あらゆる蛇が彼の足許《あしもと》から右左に逃げて行く。まるで蛇を踏分けて行くようなものだ。今にも踏《ふ》んで巻きつかれるのだと観念し、絶望の勇気を振うて死物狂《しにものぐるい》に邁進《まいしん》したが、到頭直接接触の経験だけは免れた。阿蘇の温泉に往ったら、彼等が京都の同志社で識《し》って居た其処の息子が、先日川端の湯樋《ゆどい》を見に往って蝮《まむし》に噛まれたと云って、跛をひいて居た。彼の郷里では蝮をヒラクチと云う。ある年の秋、西山に遊びに往って、唯有《とあ》る崖《がけ》を攀《よ》じて居ると、「ヒラクチが居ったぞゥ」と上から誰やら警戒を叫んだ。其時の魂も消入る様な心細さを今も時々憶い出す。

       三

 村住居をする様になって、隣は雑木林だし、墓地は近し、是非なく蛇とは近付になった。蝮はまだ一度も見かけぬが、青大将、山かゞし、地もぐりの類は沢山居る。最初は生類御憐みで、虫も殺さぬことにして居たが、此頃では其時の気分次第、
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