を羞《は》じ凋《しぼ》ます荘厳《そうごん》偉麗《いれい》の色彩を天空に輝《かがや》かしたり、諒闇《りょうあん》の黒布を瞬く間に全天に覆《おお》うたり、摩天《まてん》の白銅塔《はくどうとう》を見る間に築き上げては奈翁《なぽれおん》の雄図よりも早く微塵《みじん》に打崩したり、日々眼を新にする雲の幻術《げんじゅつ》天象《てんしょう》の変化を、出て見るも好い。
四辺《あたり》が寂《さび》しいので、色々な物音が耳に響く。鄙《ひな》びて長閑《のどか》な鶏の声。あらゆる鳥の音。子供の麦笛《むぎぶえ》。うなりをうって吹く二百十日の風。音《おと》なくして声ある春の雨。音なく声なき雪の緘黙《しじま》。単調な雷の様で聞く耳に嬉しい籾摺《もみず》りの響《おと》。凱旋の爆竹《ばくちく》を聞く様な麦うちの響。秋祭りの笛太鼓。月夜の若い者の歌。子供の喜ぶ飴屋《あめや》の笛。降るかと思うと忽ち止む時雨《しぐれ》のさゝやき。東京の午砲《どん》につゞいて横浜の午砲。湿《しめ》った日の電車汽車の響《ひびき》。稀に聞く工場の汽笛。夜は北から響く烏山の水車。隣家《となり》で井汲《いどく》む音。向うの街道を通る行軍兵士の靴音《
前へ
次へ
全684ページ中261ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング