さつ》として松風の如く心耳《しんじ》一爽《いっそう》の快を先ず感じて、尻《しり》高々とからげ、下駄ばきでざぶ/\渡って見たりして、其日|限《ぎ》りに水が落ちて了うのを毎《つね》に残念に思うのである。兎に角此気まぐれな小川でも、これあるが為に少しは田も出来る。堤《つつみ》の萱《かや》や葭《よし》は青々と茂《しげ》って、殊更《ことさら》丈《たけ》も高い。これあるが為に、夏は螢《ほたる》の根拠地《こんきょち》ともなる。朝から晩までべちゃくちゃ囀《さえず》る葭原雀《よしわらすずめ》の隠れ家《が》にもなる。五月雨《さみだれ》の夜にコト/\叩《たた》く水鶏《くいな》の宿にもなる。
八幡|田圃《たんぼ》を流るゝ田川の大きな方を、此辺では大川と云う。一間|幅《はば》しかない大川で、玉川|浄水《じょうすい》を分った灌漑用水である。此水あるが為に、千歳村から世田《せた》ヶ谷《や》かけて、何百町の田が出来る。九十一歳になる彼の父は、若い頃は村吏《そんり》県官《けんかん》として農政には深い趣味と経験を有って居る。其子の家に滞留中此田川の畔《くろ》を歩いて、熟々《つくづく》と水を眺め、喟然《きぜん》として「仁
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