目な時は頗る厳格《げんかく》沈欝《ちんうつ》な、一寸|畏《おそ》ろしい様な人であったが、子供の眼からも親切な、笑えば愛嬌の多い先生だった。何かと云うと頭を掉《ふ》るのが癖だった。毎度先生に招かるゝ彼等学生は、今宵《こよい》も蜜柑やケークの馳走になった。赤い碁盤縞《ごばんじま》のフロックを着た先生の末子《ばっし》が愛想《あいそ》に出て来たが、うっかり放屁《ほうひ》したので、学生がドッと笑い出した。其子が泣き出した。デビス先生は左の手で泣く子の頭を撫《な》で、右手の金網の炮烙《ほうろく》でハゼ玉蜀黍《もろこし》をあぶりつゝ、プチヽヽプチヽヽ其はぜる響《おと》を口真似して笑いながら頭を掉られた。其つゞきである。先生は南北戦争の逸事《いつじ》を話して、ある夜|火光《あかり》を見さえすれば敵が射撃するので、時計を見るにマッチを擦《す》ることもならず、恰《ちょうど》飛んで居た螢を捉《つかま》えて時計にのせて時間を見た、と云う話をされた。
其れは彼が今此処に居る子供の一番小さなの位の昔であった。其後彼はデビス先生に近しくする機会を有たなかった。先生の夫人は其頃から先生よりも余程ふけて居られた。後《
前へ
次へ
全684ページ中206ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング