《ふれ》が来る。村の衛生係が草鞋ばきの巡査さんと溷《どぶ》、掃溜《はきだめ》を見てあるく。其巡査さんの細君が赤痢になったと云う評判が立つ。鉦《かね》や太鼓で念仏《ねんぶつ》唱《とな》えてねりあるき、厄病禳《やくびょうばら》いする村もある。
其様《そん》な騒《さわ》ぎも何時しか下火になって、暑い/\と云う下から、ある日|秋蝉《つくつくぼうし》がせわしく鳴きそめる。武蔵野の秋が立つ。早稲が穂を出す。尾花《おばな》が出て覗《のぞ》く。甘藷を手掘りすると、早生は赤児《あかご》の腕程になって居る。大根、漬菜《つけな》を蒔かねばならぬ。蕎麦、秋馬鈴薯もそろ/\蒔かねばならぬ。暫《しばら》く緑一色であった田は、白っぽい早稲の穂の色になり、畑では稗《ひえ》が黒く、黍《きび》が黄に、粟が褐色《かちいろ》に熟《う》れて来る。粟や黍は餅《もち》にしてもまだ食える。稗は乃木さんでなければ中々食えぬ。此辺では、米を非常、挽割麦《ひきわりむぎ》を常食にして、よく/\の家でなければ純稗《さらひえ》の飯は食わぬ。下肥《しもごえ》ひきの弁当に稗の飯でも持って行けば、冷たい稗はザラ/\して咽《のど》を通らぬ。湯でも水で
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