をやる仙ちゃん、長さんも、即座師《そくざし》の鑑札を受けて繭買をはじめた。自家《うち》のお春っ子お兼っ子に一貫目《いっかんめ》何銭の掻《か》き賃をくれて、大急ぎで掻いた繭を車に積んで、重い車を引張って此処其処|相場《そうば》を聞き合わせ、一銭でも高い買手をやっと見つけて、一切合切《いっさいがっさい》屑繭《くずまゆ》まで売ってのけて、手取《てどり》が四十九円と二十五銭。夜の目も寝ずに五十両たらずかと思うても、矢張《やはり》まとまった金だ。持て帰って、古箪笥《ふるだんす》の奥にしまって茶一ぱい飲むと直ぐ畑に出なければならぬ。
 空ではまだ雲雀が根気よく鳴いて居る。村の木立の中では、何時の間にか栗の花が咲いて居る。田圃の小川では、葭切《よしきり》が口やかましく終日《しゅうじつ》騒《さわ》いで居る。杜鵑《ほととぎす》が啼《な》いて行く夜もある。梟《ふくろう》が鳴く日もある。水鶏《くいな》がコト/\たゝく宵《よい》もある。螢が出る。蝉《せみ》が鳴く。蛙が鳴く。蚊が出る。ブヨが出る。蠅が真黒《まっくろ》にたかる。蚤《のみ》が跋扈《ばっこ》する。カナブン、瓜蠅《うりばえ》、テントウ虫、野菜につく虫は
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