股引《こんももひき》、下ろし立てのはだし足袋《たび》、切り立ての手拭を顋《あご》の下でチョッキリ結びの若い衆が、爺《おやじ》をせびった小使の三円五円腹掛に捻込《ねじこ》んで、四尺もある手製の杉の撥《ばち》を担《かつ》いで、勇《いさ》んで府中に出かける。六所様には径《けい》六尺の上もある大太鼓《おおだいこ》が一個、中太鼓が幾個《いくつ》かある。若い逞《たくま》しい両腕が、撥と名づくる棍棒で力任《ちからまか》せに打つ音は、四里を隔てゝ鼕々《とうとう》と遠雷の如く響《ひび》くのである。府中の祭とし云えば、昔から阪東男《ばんどうおとこ》の元気任せに微塵《みじん》になる程御神輿の衝撞《ぶつけ》あい、太鼓の撥のたゝき合、十二時を合図《あいず》に燈明《あかり》と云う燈明を消して、真闇《まっくら》の中に人死が出来たり処女《むすめ》が女《おんな》になったり、乱暴の限を尽したものだが、警察の世話が届いて、此頃では滅多な事はなくなった。
落葉木《らくようぼく》は若葉から漸次青葉になり、杉《すぎ》松《まつ》樫《かし》などの常緑木が古葉を落《おと》し落して最後の衣更《ころもがえ》をする。田は紫雲英《れんげそう
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