おそうじ》、蚕具《さんぐ》を乾したり、ばた/\莚《むしろ》をはたいたり。月末には早い処《とこ》では掃《は》き立てる。蚕室を有《も》つ家は少いが、何様《どん》な家でも少くも一二枚|飼《か》わぬ家はない。筍《たけのこ》の出さかりで、孟宗藪《もうそうやぶ》を有つ家は、朝々早起きが楽《たのしみ》だ。肥料もかゝるが、一反八十円から百円にもなるので、雑木山は追々《おいおい》孟宗藪に化けて行く。

       五

 五月だ。来月の忙《せわし》さを見越して、村でも此月ばかりは陽暦《ようれき》で行く。大麦も小麦も見渡す限り穂になって、緑《みどり》の畑は夜の白々と明ける様に、総々《ふさふさ》とした白い穂波《ほなみ》を漂《ただよ》わす。其が朝露を帯《お》びる時、夕日に栄《は》えて白金色に光る時、人は雲雀と歌声《うたごえ》を競《きそ》いたくなる。五日は※[#「木+解」、第3水準1−86−22]餅《かしわもち》の節句だ。目もさむる若葉の緑から、黒い赤い紙の鯉《こい》がぬうと出てほら/\跳《おど》って居る。五月五日は府中《ふちゅう》大国魂《おおくにたま》神社所謂六所様の御祭礼《ごさいれい》。新しい紺の腹掛、紺
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