宴《ふるまい》は、唯親類縁者まで、村方《むらかた》一同へは、婿は紋付で組内若くは親類の男に連れられ、軒別に手拭の一筋半紙の一帖も持って挨拶に廻るか、嫁は真白に塗って、掻巻《かいまき》程《ほど》の紋付の裾《すそ》を赤い太い手で持って、後見《こうけん》の婆《ばあ》さんかかみさんに連れられてお辞儀《じぎ》をして廻れば、所謂顔見せの義理は済む。村は一月晩《ひとつきおく》れでも、寺は案外|陽暦《ようれき》で行くのがあって、四月八日はお釈迦様《しゃかさま》の誕生会《たんじょうえ》。寺々の鐘《かね》が子供を呼ぶと、爺《とう》か嬶《かあ》か姉《ねえ》に連れられた子供が、小さな竹筒を提《さ》げて、嬉々《きき》として甘茶《あまちゃ》を汲みに行く。
 東京は桜の盛、車も通れぬ程の人出だった、と麹町まで下肥《しもごえ》ひきに往った音吉の話。村には桜は少いが、それでも桃が咲く、李《すもも》が咲く。野はすみれ、たんぽゝ、春竜胆《はるりんどう》、草木瓜《くさぼけ》、薊《あざみ》が咲き乱るゝ。「木瓜薊、旅して見たく野はなりぬ」忙《せわ》しくなる前に、此花の季節《きせつ》を、御岳詣《みたけまいり》、三峰かけて榛名詣《は
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