てしまう。メレンスの半襟《はんえり》一かけ、足袋の一足、窃《そっ》と他《ひと》の女中の袂《たもと》にしのばせて、来年の餌《えさ》にする家もある。其等の出代りも済んで、やれ一安心と息をつけば、最早彼岸だ。
線香、花、水桶なぞ持った墓参《はかまいり》が続々やって来る。丸髷《まるまげ》や紋付は東京から墓参に来たのだ。寂《さび》しい墓場にも人声《ひとごえ》がする。線香の煙が上る。沈丁花《ちんちょうげ》や赤椿が、竹筒《たけづつ》に插《さ》される。新しい卒塔婆《そとば》が立つ。緋《ひ》の袈裟《けさ》かけた坊さんが畑の向うを通る。中日は村の路普請《みちぶしん》。遊び半分若者総出で、道側《みちばた》にさし出た木の枝を伐り払ったり、些《ちっと》ばかりの芝土を路の真中《まんなか》に抛《ほう》り出したり、路壊《みちこわ》しか路普請か分からぬ。
四
四月になる。愈《いよいよ》春だ。村の三月、三日には雛《ひな》を飾る家もある。菱餅《ひしもち》草餅《くさもち》は、何家でも出来る。小学校の新学年。つい去年まで碌《ろく》に口も利《き》けなかった近所の喜左坊《きさぼう》が、兵隊帽子に新らしいカバン
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