と伝える。「火事だよう」「火事だァよゥ」彼方《あち》此方《こち》で消防の若者が聞きつけ、家に帰って火事《かじ》袢纏《ばんてん》を着て、村の真中《まんなか》の火の番小屋の錠《じょう》をあけて消防道具を持出し、わッしょい/\駈《か》けつける頃は、大概の火事は灰《はい》になって居る。人家が独立して周囲に立木《たちき》がある為に、人家《じんか》櫛比《しっぴ》の街道筋を除いては、村の火事は滅多《めった》に大火にはならぬ。然し火の粉《こ》一つ飛んだらば、必焼けるにきまって居る。東京は火事があぶねえから、好い着物は預けとけや、と云って、東京の息子《むすこ》の家の目ぼしい着物を悉皆《すっかり》預って丸焼にした家もある。
梅は中々二月には咲かぬ。尤も南をうけた崖下《がけした》の暖かい隈《くま》なぞには、ドウやらすると菫《すみれ》の一輪、紫に笑んで居ることもあるが、二月は中々寒い。下旬になると、雲雀《ひばり》が鳴きはじめる。チ、チ、チ、ドウやら雲雀が鳴いた様だと思うと、翌日は聞こえず、又の日いと明瞭に鳴き出す。あゝ雲雀が鳴いて居る。例令《たとえ》遠山《とおやま》は雪であろうとも、武蔵野の霜や氷は厚かろう
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