搗《つ》きが細かで、上手《じょうず》に紅入の宝袋《たからぶくろ》なぞ拵《こさ》えてよこす。下田の金さん処《とこ》のは、餡《あん》は黒砂糖だが、手奇麗《てぎれい》で、小奇麗な蓋物《ふたもの》に入れてよこす。気取ったおかず婆さんからは、餡がお気に召すまいからと云って、唯搗き立てをちぎったまゝで一重《ひとじゅう》よこす。礼に往って見ると、奥《おく》は正月前らしく奇麗に掃《は》かれて、土間《どま》にはちゃんと塩鮭《しおざけ》の二枚もつるしてある。

       二

 二月は村の正月だ。松立てぬ家《うち》はあるとも、着物更えて長閑《のどか》に遊ばぬ人は無い。甲州街道は木戸八銭、十銭の芝居《しばい》が立つ。浪花節が入り込む。小学校で幻燈会《げんとうかい》がある。大きな天理教会、小さな耶蘇教会で、東京から人を呼んで説教会がある。府郡の技師が来て、農事講習会がある。節分は豆撒《まめま》き。七日が七草《ななくさ》。十一日が倉開き。十四日が左義長《さぎちょう》。古風にやる家も、手軽でやらぬ家もあるが、要するに年々昔は遠くなって行く。名物は秩父《ちちぶ》颪《おろし》の乾風《からっかぜ》と霜解《しもど》け
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