生に強《しい》られたのは、あまりと云えば無惨《むざん》ではありますまいか。あなたはトルストイ[#「トルストイ」に傍線]の名を其様《そんな》に軽いやすっぽいものに思ってお出なのでしょう乎。「吾未だ義人《ぎじん》の裔《すえ》の物乞いあるくを見し事なし」とソロモン[#「ソロモン」に傍線]は申しました。トルストイ[#「トルストイ」に傍線]の妻は其《その》夫《おっと》をルーブルにして置かねばならぬ程貧しい者でしょう乎。トルストイ[#「トルストイ」に傍線]の子女は、其父を食わねば生きられぬ程《ほど》腑甲斐《ふがい》ないものでしょう乎。私にはあなたがハズミに乗って機械的に為《せ》られたと思う外、ドウもあなたのお心持が分かりません。全く正気の沙汰とは思われかねるのです。莫斯科《モスクワ》の小店なぞに切々《せっせ》と売溜《うりだめ》の金勘定ばかりして居るかみさんのマシューリナ、カテーリナならいざ知らず、世界のトルストイ[#「トルストイ」に傍線]の夫人の挙動《ふるまい》としては、よく云えばあまりに謙遜《けんそん》な、正《まさ》しく云えばあまりに信仰がない鄙《さもし》い話ではありますまい乎。私は先生の心中が
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