沢山居る。而してそれを嗾《け》しかけて、弱いもの窘《いじ》めを楽む子供もあれば、馬鹿な成人《おとな》もある。弱い白は屹度|咬《か》まれる。其れがいやさに隠れて出る様《よう》にしても、何処からか嗅ぎ出して屹度跟いて来る。而して咬まれる。悲鳴をあげる。二三疋の聯合軍に囲まれてべそをかいて歯を剥《む》き出す。己れより小さな犬にすら尾を低《た》れて恐れ入る。果ては犬の影され見れば、己《われ》ところんで、最初から負けてかゝる。それでも強者の歯をのがれぬ場合がある。最早《もう》懲《こ》りたろうと思うて居ると、今度出る時は、又候《またぞろ》跟いて来る。而して往復途中の出来事はよく/\頭に残ると見えて、帰ったあとで樫《かし》の木の下にぐったり寝ながら、夢中で走るかの様に四肢《しし》を動かしたり、夢中で牙をむき出しふアッと云ったりする。
弱くても雄は雄である。交尾期になると、二日も三日も影を見せぬことがあった。てっきり殺されたのであろうと思うて居ると、村内唯一の牝犬《めいぬ》の許《もと》に通うて、他の強い大勢の競争者に噛まれ、床の下に三日|潜《もぐ》り込んで居たのであった。武智十次郎ならねども、美しい
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