《ごく》上等《じょうとう》のをと気前を見せて言い値《ね》でさっさと買って来る様な子供らしいこともついしたくなる。然し店硝子《みせがらす》にうつる乃公《だいこう》の風采《ふうさい》を見てあれば、例令《たとえ》其れが背広《せびろ》や紋付羽織袴であろうとも、着こなしの不意気さ、薄ぎたない髯顔《ひげがお》の間抜け加減、如何に贔屓眼《ひいきめ》に見ても――いや此では田舎者扱いさるゝが当然だと、苦笑《にがわら》いして帰って来る始末。此程村の巡査が遊びに来た。日清戦争の当時、出征軍人が羨ましくて、十五歳を満二十歳と偽り軍夫になって澎湖島《ほうことう》に渡った経歴もある男で、今は村の巡査をして、和歌など詠み、新年勅題の詠進などして居る。其巡査の話に、正服《せいふく》帯剣《たいけん》で東京を歩いて居ると、あれは田舎のお廻《まわ》りだと辻待《つじまち》の車夫がぬかす。如何して分《わ》かるかときいたら、眼《め》で知れますと云ったと云って、大笑した。成程《なるほど》眼で分かる――さもありそうなことだ。鵜《う》の目、鷹の目、掏摸《すり》の眼、新聞記者の眼、其様《そん》な眼から見たら、鈍如《どんより》した田舎者の
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