ると、墓地で蛇を見た。田圃の小川の※[#「木+威」、第4水準2−15−16]《いび》の下では、子供が鮒《ふな》を釣《つ》って居る。十丁そこら往って見かえると、吾家も香爐《こうろ》の家《いえ》程に小さく霞《かす》んで居る。
 今日は夕日の富士が、画にかいた「理想《りそう》」の様に遠くて美しかった。

       (七)仲春

 四月十七日。
 戸を開《あ》けて、海――かと思うた。家を繞《めぐ》って鉛色《なまりいろ》の朝霞《あさがすみ》。村々の森の梢《こずえ》が、幽霊《ゆうれい》の様に空《そら》に浮いて居る。雨かと舌鼓《したつづみ》をうったら、霞《かすみ》の中からぼんやりと日輪《にちりん》が出て来た。見る/\日の威力は加わって、光は白く霞に咽《むせ》ぶ。
 庭の桜の真盛りである。落葉松《らくようしょう》、海棠《かいどう》は十五六の少年と十四五の少女を見る様。紫の箱根つゝじ、雪柳《ゆきやなぎ》、紅白の椿、皆真盛り。一重山吹も咲き出した。セイゲン、ヤシオなど云う血紅色《けっこうしょく》、紅褐色《こうかっしょく》の春モミジはもとより、槭《もみじ》、楓《かえで》、楢《なら》、欅《けやき》、ソロなどの新芽《しんめ》は、とり/″\に花より美しい。
 畑に出て見る。唯《ただ》一叢《ひとむら》の黄なる菜花《なのはな》に、白い蝶が面白そうに飛んで居る。南の方を見ると、中っ原、廻沢《めぐりさわ》のあたり、桃の紅《くれない》は淡く、李は白く、北を見ると仁左衛門の大欅《おおけやき》が春の空を摩《な》でつゝ褐色《かっしょく》に煙《けぶ》って居る。
 春の日も午近くなれば、大分青んで来た芝生に新楓《しんふう》の影|繁《しげ》く、遊びくたびれて二《ふた》つ巴《ともえ》に寝て居る小さな母子《おやこ》の犬の黒光《くろびか》りする膚《はだ》の上に、桜《さくら》の花片《はなびら》が二つ三つほろ/\とこぼれる。風が吹く。木影《こかげ》が揺《うご》く。蛙が鳴く。一寸《ちょっと》耳をびちっと動かした母犬《おやいぬ》は、またスヤ/\と夢をつゞける。
 夕方は、まんまるな紅《あか》い日が、まんじりともせず悠々《ゆうゆう》と西に落ちて行く。横雲《よこぐも》が一寸|一刷毛《ひとはけ》日の真中を横に抹《なす》って、画にして見せる。最早《もう》穂《ほ》を孕《はら》んだ青麦《あおむぎ》が夕風にそよぐ。
 夜は蛙の声の白い月夜
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