原を過ぎて、崖《がけ》の下、小さな流《ながれ》に沿《そ》うてまた一つ小屋がある。これが斗満|最奥《さいおく》の人家《じんか》で、駅逓《えきてい》から此処《ここ》まで二里。最後の人家を過ぎてしばらく行く程に、イタヤの老樹《ろうじゅ》が一株、大分|紅葉《もみじ》した枝を、振《ふり》面白くさし伸《の》べて居る小高い丘《おか》に来た。少し早いが此処で昼食《ちゅうじき》とする。人夫が蕗《ふき》の葉や蓬《よもぎ》、熊笹《くまざさ》引かゞってイタヤの蔭《かげ》に敷いてくれたので、関翁、余等夫妻、鶴子も新之助君の背《せなか》から下りて、一同草の上に足投げ出し、梅干《うめぼし》菜《さい》で握飯《にぎりめし》を食う。流れは見えぬが、斗満《とまむ》の川音《かわおと》は耳|爽《さわやか》に、川向うに当る牧場内《ぼくじょうない》の雑木山は、午《ご》の日をうけて、黄に紅に緑に燃《も》えて居る。やがてこゝを立って小さな渓流《けいりゅう》を渡る時、一同石に跪《ひざまず》いて清水《しみず》をむすぶ。
 最早《もう》人気《ひとけ》は全く絶えて、近くなる時斗満の川音を聞くばかり。鷹《たか》の羽《は》なぞ落ちて居る。径《みち》は稀《まれ》に渓流を横ぎり、多く雑木林《ぞうきばやし》を穿《うが》ち、時にじめ/\した湿地《ヤチ》を渉る。先日来の雨で、処々に水溜《みずたまり》が出来て居るが、天幕《てんと》の人達が熊笹を敷き、丸木《まるき》を渡《わた》しなぞして置いて呉れたので、大に助かる。関翁は始終《しじゅう》一行《いっこう》の殿《しんがり》として、股引《ももひき》草鞋《わらじ》尻《しり》引《ひき》からげて杖《つえ》をお伴《とも》にてく/\やって来る。足場の悪い所なぞ、思わず見かえると、後《あと》見るな/\と手をふって、一本橋にも人手を仮《か》らず、堅固《けんご》に歩いて来る。斯くて四里を歩《あゆ》んで、午後の一時|渓声《けいせい》響く処に鼠色《ねずみいろ》の天幕《てんまく》が見えた。林君以下きながしのくつろいだ姿で迎える。
 斗満川辺の少しばかりの平地を拓《ひら》いて、天幕が大小六つ張ってある。アイヌの小屋も一つある。林《はやし》林学士を統領《とうりょう》として、属員《ぞくいん》人夫《にんぷ》アイヌ約二十人、此春以来|此処《ここ》を本陣《ほんじん》として、北見界《きたみざかい》かけ官有|針葉樹林《しんようじゅり
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