あろうか。※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−10]別橋から瞰《なが》むる※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−10]別川の川床荒れて水の濁れるに引易《ひきか》え、斗満川の水の清さ。一個々玉を欺《あざむ》く礫《こいし》の上を琴の相の手弾く様な音立てゝ、金糸と閃めく日影《ひかげ》紊《みだ》して駛《はし》り行く水の清さは、まさしく溶けて流るゝ水晶である。「千代かけてそゝぎ清めん我心、斗満《とまむ》の水のあらん限りは」と翁の歌が出来たも尤である。貢君の話によれば、斗満川の水温は※[#「陸」の「こざと」に代えて「冫」、上巻−298−14]別川の其れより三四度も低いそうな。人跡到らぬキトウス山の陰から来るのだ。然《さ》もあろう。今こそ駅逓には冬も氷らぬ清水《しみず》が山から引かれてあるが、まだ其等の設備もなかった頃、翁の灌水は夏はもとより冬も此斗満川でやったのだ。此斗満の清流が数尺の厚さに氷結した冬の暁、爛々たる曙の明星の光を踏んで、浴衣《ゆかた》一枚草履ばきで此川辺に下り立ち、斧《おの》で氷を打割って真裸に飛び込んだ老翁の姿を想い見ると、畏敬の情は自然に起る。
 駅逓に帰って、道庁技師林常夫君に面会。駒場《こまば》出《で》の壮年の林学士。目下ニオトマムに天幕《てんまく》を張って居る。明日関翁と天幕訪問の約束をする。
 昨夕来泊した若年《じゃくねん》の測量技手星正一君にも面会。星君が連れた若い人夫が、食饌のあと片付、掃除、何くれとまめ/\しく立働くを、翁は喜ばしげに見やって、声をかけ、感心だと賞《ほ》める。
 午後は親子三人、此度は街道を西南に坂を半上って、牧場の埒内《らちない》に入る。東向きの山腹、三囲《みかかえ》四囲《よかかえ》もある楢《なら》の大木が、幾株も黄葉の枝を張って、其根もとに清水が湧《わ》いたりして居る。馬牛の群の中を牛糞を避《よ》け、馬糞を跨《また》ぎ、牛馬舎の前を通って、斗満川に出た。少し川辺に立って居ると、小虫が黒糠《くろぬか》の様にたかる。関翁が牧場記事の一節も頷《うなず》かれる。左程大くはないと云っても長《たけ》六尺はある蕗《ふき》や、三尺も伸びた蓬《よもぎ》、自然生の松葉独活《アスパラガス》、馬の尾について殖《ふ》えると云う山牛蒡、反魂香と云う七つ葉なぞが茂って居る川沿いの径《こみち》を通って、斗満橋の袂《たもと》
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