名も余には遠いものであった。処があとで関翁の話を聞けば、思いきや五郎君は翁の末子で、翁が武蔵野の茅舎《ぼうしゃ》を訪われたのも、実は五郎君の勧《すすめ》であった。要するに余等は五郎君の霊に引張られて今此処に来て翁と対座して居るのである。
翁は一冊の稿本を取り出して来て示される。題して関牧場創業記事と云う。披《ひら》いて見ると色々面白い事がある。牧場も創業以来已に十年、汽車も開通して、万事がこゝに第二期に入らんとして居る。既往を思えば翁も一夢の感があろう。翁はまた此様なものを作ったと云って見せる。場内の農家に頒《わか》つ刷物《すりもの》である。
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日々の心得の事
一 一家|和合《なかよく》して先祖を祭り老人《としより》を敬うべし
一 朝は早く起き家業に就き夜は早く寝《ね》につくべし
一 諸上納《しょじょうのう》は早く納むべし
一 金銭取引の勘定《かんじょう》は時々致すべし
一 他人と寄合《よりあい》の時或は時間《とき》の定ある時は必ず守るべし
一 何事にても約束ある上は必ず実行すべし
一 偽言《うそ》は一切いうべからず
一 火の要心を怠るべからず
一 掃除《そうじ》に成丈注意すべし
一 流し元と掃溜《はきだめ》とは気をつけて衛生に害なきよう且|肥料《こやし》にすべき事
一 家具の傷みと障子の切張とに心付くべし
一 喰物《くいもの》はむだにならぬ様に心を用い別して味噌と漬物とは用いたる跡にも猶心を用うべし
一 他人より物をもらいたる時は返礼を忘るべからず
一 買物は前以て価《ねだん》を聞き現金たるべし一厘にてもむだにならぬ様にすべし
一 総て身分より内輪に諸事に心懸くべし人を見さげぬ様に心懸くべし
一 常着《つねぎ》は木綿筒袖たるべし
一 種物は成るべく精撰して取るべし
一 農具は錆《さび》ぬ様に心懸くべし
一 貯金は少しずつにても怠るべからず
一 一ヶ年の収入に応じて暮方を立つべし
一 一家の経済は家族一同に能く知らせ置くべし
一 他人《ひと》の子をも我子にくらべて愛すべし
一 他人より諸品《しなもの》を借りたる時は早く返すことに心がくべし
一 場内の農家は互に諸事を最も親しくすべし
一 平生自己の行に心を尽すべし且世上に対すべし
明治四十三年
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翁はもと/\我利《がり》から広大の牧場地を願下げたと思
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