猟人
津村信夫


 鉄砲打ちと云ふものには、よく、秋の汽車の中で出会つた。赤ら顔で、大柄な、さうして大抵、沈黙勝ちな人が多い。
 三等寝台のあつた頃だ。
 初冬の寒い夜更け、信越線の或る駅から、上り列車に乗り込むと、私の座席に、鳥打帽を被つた二人の男が坐つてゐた。
 一目見てすぐ猟人だとわかつたが、夥しい獲物を携へてゐた。さうして、その獲物の鳥の、足や羽根には、ところどころ雪粉がついてゐた。
 二人は向ひ合つてゐるが、別に、話をしてゐるのでもない、只どちらかの顔に、時々満足らしい微笑が浮ぶ。
「どうれ、寝るとしようか」
 やゝたつて、一人が云つた。相手は、軽くうなづいた。
 多分、今日一日中、吹雪の中を信越の国境ひで獲物を追つてゐたのだらう、私はさう判断した。
 何気なく、「見事な鳥ですね、それはなんですか」と私は話しかけた。すると、二人はたいへん不機嫌な顔になつた、さうして、一人の男が、「山鳥ですよ」と吐き出すやうに答へた。それはまるで怒つたやうな声であつた。それでゐて、別に人に悪い感じを与へるといふのでもなかつた。
 私は下のベツドにやすんだ。男達は、もう一本紙巻煙草を根もとまで
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
津村 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング