ばかり思っていたが、それは空に凍りついて、じっといつまでも動かない薄雲にすぎなかった。
もう四時半になった、山は依然として薄暗く、空にはまだ暁の色はただよわない、そしてまた一同が立ち上がった折も、再びランターンの光を借りなくては、クレヴァースの口を開いた、シュレック・フィルンを横切ることはできなかった。
ここからもう足形はない、雪は堅く凍って、靴底の釘がガリガリ食い入るだけで、今までよりもかえって歩きやすい、しかし私たちは、注意に注意して、大小のクレヴァースの間を縫って、静かに、つま先上りのフィルンを登って行った。
ある時には、飛び越せると思ったクレヴァースが思いのほか広くて、せっかく来た暗がりのフィルンを、あともどりしてぐるっと遠回わりに向こう側に渡ったこともある、こうしてクーロアールの直下までたどりつくと、そこに二列の非常に大きなクレヴァースがある、昨日雪踏みに来た時、遠くから眺めて、あれをどうして飛び越すのかと思ったが、近づくとヘッスラーの言った通り、その二列はフィルンの間に食い違いになって、狭い雪橋《シュネーブリュッケ》が斜めにクレヴァースを横切っている、私たちは難なくそ
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