の勝った新らしい模様の友禅メリンスの小さい幕を被《き》せた電灯が朧ろに霞んで見える。
階下《した》では女中の声も更けた。もう大分前に表の木戸を降したらしい。時々低く電話を鳴してお宮を催促しているようであった。
やがてすうっと襖が開《あ》いて、衣擦れの音がして、枕頭《まくらもと》の火鉢の傍に黙って坐った。私は独で擽られるような気持になって凝乎《じっ》と堪えて蒲団を被ったまゝでいた。
女は矢張し黙って軽い太息《ためいき》を洩らしている。
私は遂々《とうとう》負けて襟から顔を出した。
女は雲のような束髪《かみ》をしている。何時か西洋の演劇雑誌で見たことのある、西洋《あちら》の女俳優《おんなやくしゃ》のような頭髪《かみ》をしている、と思って私は仰《あおむ》けに寝ながら顔だけ少し横にして、凝乎と微笑《わら》い/\女の姿態《ようす》に見惚れていた。
壁鼠とでもいうのか、くすんだ地に薄く茶糸《ちゃ》で七宝繋ぎを織り出した例《いつも》のお召の羽織に矢張り之れもお召の沈んだ小豆色《あずきいろ》の派手な矢絣の薄綿を着ていた。
深夜《よふけ》の、朧に霞んだ電灯の微光《うすあかり》の下《もと》に
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