あったのだ。加之《それに》銭《かね》だって差当り入るだけ無いじゃないか。帰って来て、
「どうも可い宿《うち》はない。」というと、
「急にそう思うような宿は何《ど》うせ見付からない。松林館に行ったら屹度《きっと》あるかも知れぬ。彼処《あすこ》ならば知った宿だから可い。今晩一緒に行って見ましょう。」
と言って、二人で聞きに行った。けれども其処には何様《どん》な室《へや》もなかった。其の途中で歩きながら私は最後に本気になって種々《いろいろ》と言って見たけれど、お前は、
「そりゃ、あの時分はあの時分のことだ。……私は先の時分にも四年も貧乏の苦労して、またあなたで七年も貧乏の苦労をした。私も最早《もう》貧乏には本当に飽き/\した。……仮令《たとい》月給の仕事があったって私は、文学者は嫌い。文学者なんて偉い人は私風情にはもったいない。私もよもや[#「よもや」に傍点]に引《ひか》されて、今にあなたが良くなるだろう、今に良くなるだろうと思っていても、何時まで経ってもよくならないのだもの。それにあなたぐらい猫の眼のように心の変る人は無い。一生当てにならない……。」
斯う言った。そりゃ私も自分でも、そ
前へ
次へ
全118ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング