、……判りませんわ。」
「そう……判らないだろう。まあ何かする人だろう。」
「でも気になるわ。」
「そう気にしなくっても心配ない。これでも悪いことをする人間じゃないから。」
「そうじゃないけれど……本当言って御覧なさい。」
「これでも学者見たようなものだ。」
「学者! ……何学者? ……私、学者は好き。」
本当に学者が好きらしゅう聞くから、
「そうか。お宮さん学者が好きか。此の土地にゃ、お客の好みに叶うように、頭だけ束髪の外見《みかけ》だけのハイカラが多いんだが、お宮さんは、じゃ何処か学校にでも行っていたことでもあるの?」
学生とか、ハイカラ女を好む客などに対しては、その客の気風を察した上で、女学生上りを看板にするのが多い。――それも商売をしていれば無理の無いことだ。――その女も果して女学校に行って居ったか、何うかは遂には分らなかったが所謂学者が好きということは、後になるに従って本当になって来た。
斯う言って先方《さき》の意に投ずるように聞くと、
「本郷の××女学校に二年まで行っていましたけれど、都合があって廃《よ》したんです。」と言うから、じゃ何うして斯様《こん》な処に来ている
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