どもそれまでの私の仕打に就いては随分自分が好くなかった、ということを、十分に自身でも承知している。だから今話すことを聞いてくれたなら、お前の胸も幾許《いくら》か晴れよう。また私は、お前にそれを心のありったけ話し尽したならば、私の此の胸も透《す》くだろうと思う、そうでもしなければ私は本当に気でも狂《ふ》れるかも知れない。出来るならば、手紙でなく、お前に直《じか》に会って話したい。けれどもそれは出来ないことだ。それゆえ斯うして手紙を書いて送る。
お前は大方忘れたろうが、私はよく覚えている。あれは去年の八月の末――二百十日の朝であった。お前は、
「もう話の着いているのに、あなたが、そう何時までも、のんべんぐらりと、ずる/\にしていては、皆《みんな》に、私が矢張《やっぱ》しあなたに未練があって、一緒にずる/\になっているように思われるのが辛い。少しは、あなただって人の迷惑ということも考えて下さい。いよいよ別れて了えば私は明日の日から自分で食うことを考えねばならぬ。……それを思えば、あなたは独身《ひとりみ》になれば、何うしようと、足纏いがなくなって結句気楽じゃありませんか。そうしている内にあな
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