さよなら! じゃ、いらっしゃいな! 切りますよ。」と、向から言うと、私が、「あゝもし/\。もし/\。宮ちゃん宮ちゃん、一寸々々《ちょいとちょいと》。まだ話すことがあるんだよ。」と何か話すことがありそうに言って追掛《おっか》ける。終《しまい》にはわざと、両方で、
「左様なら!」
「さよなら!」
 を言って、後を黙《だま》あっていて見せる。私は、お宮の方でも、そうだろうと思っていた。
 そうして交換手に「もう五分間来ましたよ。」と、催促をせられて、そのまゝ惜しいが切って了うこともあったが、後には、あと[#「あと」に傍点]からまた一つ落して、続けることもあった。白銅を三つ入れたこともあれば、十銭銀貨を入れたこともあった。私は、気にして、始終《しょっちゅう》白銅を絶やさないようにしていた。
 珍らしく一週間も経って、桜木では、此の間のようなこともあったし、元々|其家《そこ》は長田の定宿のようになっている処だから、また何様《どん》なことで、何が分るかも知れないと思って、お宮に電話で、桜木は何だか厭だから、是非何処か、お前の知った他の待合《うち》にしてというと、それではこれ/\の処に菊水という、桜
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